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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)102号 判決

審決に、これを取り消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。

1 成立について争いのない甲第二号証(本願発明に係る特許出願公告公報)によれば、本願明細書の特許請求の範囲の記載は前示本願発明の要旨のとおりであるところ、エンジン排気中の有害成分たる窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去するのに、従前は、窒素酸化物は酸素分圧の低い還元雰囲気下で還元処理し、一酸化炭素及び炭化水素は未燃焼分を酸化するに十分な酸化雰囲気中で触媒等による再燃焼処理を行つていたが、かかる従来法では、酸素分圧の低い還元雰囲気中で窒素酸化物を還元処理するに際して、排気中に含まれる水素(H2)と窒素酸化物との反応によりアンモニアが発生し、次いで一酸化炭素及び炭化水素を処理するために装着された酸化触媒を通すとき、右アンモニアが酸化されて再び窒素酸化物が生成されるため、窒素酸化物の処理効率が著しく低下するとの問題点を有していたことに鑑み、本願発明においては、白金、パラジウム等の酸化還元両用触媒を使用すると、排気をこれに通すに際し加えられる酸素の量の多寡に応じ、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素の浄化率がそれぞれ別紙のとおり変動する(本願明細書の第三図、第四図。空気と燃料との混合比、すなわち空燃比を一三ないし一四に保つように調整された自動車用エンジンについて得られたもので、第三図は白金、パラジウムの混合粒状触媒を使用した場合、第四図はパラジウムのハネカム状触媒を使用した場合である。)ことに着目して、酸素と一酸化炭素の体積流量比が〇・四二<省略>となるように制御しつつ空気を混入した排気を酸化還元両用触媒に通すようにしたものであることが認められる。

ところで、原告は、本願発明においては、右酸化還元両用触媒による一段階の処理によつて排気中の窒素酸化物をほとんど完全に除去すると同時に一酸化炭素及び炭化水素の多くの部分(七五%以上)をも除去するのであり、エンジンからの排気は酸化又は還元等の事前処理を施すことなく直接右触媒に通されるものである旨主張する。確かに、本願明細書中(前掲甲第二号証第一欄二五行目ないし三三行目、第二欄二四行目ないし三四行目、第四欄六行目ないし一九行目)には原告が指摘(事実摘示第二、四、2)するとおりの文言が記載されており、また、本願明細書の第五図及びこれに対応した説明をもつて、本願発明の実施例として、機関からの排気をなんら事前処理を施すことなく直接酸化還元両用触媒層に導入して処理したうえ、その後位置に、残留した一酸化炭素及び炭化水素の酸化処理を行う触媒層を配置したものが示されていることは明らかである。しかしながら、本願明細書の前示第三図、第四図(別紙(〔編註〕省略)参照)によれば、本願発明の規定する範囲内に酸素と一酸化炭素との体積流量比を制御して排気を酸化還元両用触媒に導入しても、一酸化炭素及び炭化水素の浄化率が七五%にはるか満たない四〇~六〇%程度の場合が存することは明らかであるのみならず、右浄化率が七五%以上となるように酸素と一酸化炭素との流量比を制御して操作したとしても、前掲甲第二号証によれば、機関において発生する排気中の窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素の各濃度がどの程度のものであるかは、それ自体所与のものとして本願発明の関知するところではなく、その濃度は空燃比、燃焼温度等によつて決せられるものなのであるから、本願発明の酸化還元両用触媒を通して処理した後の排気ガス中の有害成分の濃度はなんら特定され得ないものというほかない。しかも、前掲甲第二号証によれば、本願発明のエンジン排気浄化装置において使用される触媒は、窒素酸化物の還元を主目的とする酸化還元両用触媒の一個のみと限定されているわけではなく(このことは、前示本願明細書の第五図に示された本願発明の実施例において、酸化還元両用触媒の後位置に他の酸化触媒が使用されていることからも明らかである。)、右酸化還元両用触媒も、排気系中に置かれて、それがここに、導入される排気中の窒素酸化物を主として還元し併せて一酸化炭素、炭化水素の多くの部分をも酸化するものであれば足りるものである。してみれば、本願発明のエンジン排気浄化装置においては、機関において発生する有害成分の濃度、最終的に達成すべき各有害成分の浄化率等を勘案して、窒素酸化物を主として還元し併せて一酸化炭素、炭化水素の多くの部分をも酸化する機能を有する酸化還元両用触媒を、排気系中に他の触媒の下流に置く場合をも包含するものと認むべきものであつて、原告の前示主張は採用できない。

2 これに対し、成立について争いのない甲第五号証(引用例)によれば、引用例には、審決指摘のとおり、「エンジンの排気ガス中の炭化水素及び一酸化炭素を再燃焼装置によつて減少させて一酸化炭素の割合を窒素酸化物の一〇倍の容量とし、酸素と一酸化炭素の容積比を〇・三三~〇・五三となるように空気量を制御して触媒装置を通し、触媒によつて、窒素酸化物を還元するとともに一酸化炭素を酸化し、更に一酸化炭素の過剰量及び炭化水素の残存量を酸化するのを助けるようにした排気ガスの浄化方法」が記載されているものと認められる。引用例の特許請求の範囲の項及び発明の詳細な説明の項には、それぞれ原告指摘(事実摘示第二、四、1)のとおりのことが記載されており、また、その実施例の説明として、一酸化炭素四容量%、炭化水素〇・〇六容量%、窒素酸化物〇・一二容量%を含む排気ガスを処理するに際し、先ず再燃焼装置において、一酸化炭素を一五容量%、炭化水素を〇・〇〇三容量%にまで減少させ、しかる後、触媒中に排気を通し、〇・三容量%の一酸化炭素が排気ガス中に残つた旨の記載(甲第五号証の三枚目右上欄一四行目ないし同左下欄九行目)があるけれども、原告も自認する甲第五号証の二枚目右下欄九行目から同一六行目の触媒の作用に関する記載をも考慮すれば、引用例に開示されている発明を、前示のとおりの排気ガスの浄化方法にあるものと認定することの妨げとなるものではない。

したがつて、引用例の触媒は、その作用に照らしてみれば一酸化炭素及び炭化水素の酸化を助けるとともに窒素酸化物の還元を助ける酸化還元両用触媒であり、この種の触媒として周知のものを用いているものであるところ、本願発明における酸化還元両用触媒は、前掲甲第二号証によれば、白金、パラジウム等の従前から慣用されている触媒が実施例として開示されているものにすぎないのであるから、引用例の触媒は、本願発明の酸化還元両用触媒と素材として全く同一のものであると認められるのみならず、窒素酸化物を主として還元し併せて一酸化炭素、炭化水素の多くの部分をも酸化する機能を有し、その機能をもつて右三成分の酸化還元処理に用いられているとの用法の点においても、本願発明の酸化還元両用触媒と異なるところはないものと認められる。

また、触媒に排気を導入する際に混入される空気量(酸素量)は、引用例と本願発明とで差異がなく、触媒の素材及び機能も前認定のとおり両者は同一なのであるから、触媒中においてアンモニアの発生を抑止する作用も全く異なるところがないものというほかない。

3 以上のとおりであるから、本願発明と引用例の発明とを比較した場合、本願発明の酸化還元両用触媒と引用例の触媒とはその機能、配置個所ないし用法において異なるところがなく、これに排気を導入するに際して混入する酸素量も同一であつて、同一の作用によつて窒素酸化物の還元処理に際してのアンモニアの発生を抑止しているものであるから、結局、両者は同一の発明と認められ、これと同旨に出た審決になんら誤りはない。

よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

エンジンの排気系中に窒素酸化物の還元を主目的とする酸化還元両用触媒層を置き、酸素と一酸化炭素との体積流量比が<省略>となるように制御しつつ空気を混入した排気を前記触媒に通して、窒素酸化物を主として還元し併せて一酸化炭素、炭化水素の多くの部分をも酸化することを特徴とするエンジン排気浄化装置。

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